大台ヶ原>原生林再生事業は自然破壊である
情報提供者 : 大台ケ原・大峰の自然を守る会
提供日付 : 2003/08/01 10:15
登録経由地 : 自然環境フォーラム プレスリリース07 #00981
注意:自然環境フォーラム及びネイチャー&バードフォーラム経由で掲載した
情報には、一部に当該団体の公式なリリースではなく、ネットワーク向
けにのみ提供された情報が含まれています。
また、掲載形式は、原則として上記フォーラムに掲載されたテキストそ
のもので、前後にフォーラム会員宛の説明や挨拶が付け加えられている
場合があります。
釧路湿原自然再生大会 シンポジュウム「再生事業と市民参加」参加の皆様へ
2003年6月21日
何故、いま、「自然再生」なのか・・
大台ヶ原(奈良)の原生林再生事業は自然破壊そのものである
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
奈良県三重県にまたがって大台ヶ原(1600m)という山があります。その原生
林は戦前戦後を通じて大規模な伐採をまぬがれて来ましたが、1960年代に皆伐の
危機が迫りました。
時あたかも環境庁発足、全国自然保護連合結成の時であり、本会が中心になり
官民一体の「ブナ林を守れ」の運動を盛り上げ、それがきっかけで73年に所謂
「民有地買上制度」がつくられました。翌74・75年に製紙会社所有の 813haのブ
ナ原生林が22億円の全額国費で買上げられ、伐採をまぬがれました。これだけま
とまった面積を全額国費で買上げられたところは最初で最後です。その結果、環
境省が土地を所有するわが国唯一の国立公園になりました。
1959・61年の伊勢湾台風・第2室戸台風でトウヒの純林が倒されました。環境
省移管を待って、86年からトウヒ林保全対策事業が始まり、現在まで1億円以上
の血税を注ぎましたが1本のトウヒも育っていません。2001年11月、この事業の
非効率性に社会的評価を加えることになりました。検討会を改組して新たに森林
生態系保全対策事業を発足しようとしたところへ突然、自然再生推進法が浮上し
ました。
ご存知の通り、法案に対して全国の自然保護団体・弁護士会などから強い反対
の声が起こり、北海道自然保護協会・札幌弁護士会は廃案を求めました。国会審
議は難航しましたが、2002年末に成立しました。
それを待って検討会は「自然再生検討会」に改称され、森林生態系保全対策事
業は「自然再生推進事業」に衣変えをして、「自然再生推進計画調査」が始まりま
した。2002年末から年度末にかけて、親検討会と三つの作業部会の合計8回の会
議が慌しく開かれました。本会も利用対策部会委員として参加しました。調査は
すべてコンサルタント会社が行いますが、事業計画策定は2004年2月と限られて
いますので、あと半年を残すだけです。
そこで当然、従来の「環境省直轄事業」と自然再生推進法に基づく「自然再生
事業」との関係が問題になりますが、今までのところ環境省は「結論的には、現
時点では、自然再生推進法の適用を考える状況に至っていない。現在検討中の調
査は法律に基づくものではなく予算に基づくものであるので、自然再生推進法と
は切り離して検討していきたい。平成13年度に自然再生推進計画調査の予算措
置を準備し、大台ヶ原では14年度から行なわれている。更にその計画が作成され
た後の事業【自然再生整備事業】の予算措置を措置した。自然再生推進法は手続
法であって、その手続きにのっとってやるか切り離してやるか選択肢はある。」
と口をにごしていますが、自然再生推進法の適用は時間の問題でしょう。
というのは、環境省は自然再生事業の三つのモデル地区をすでに決定している
のです。湿原ではサロベツ湿原、サンゴ礁では石西礁湖、そして森林は大台ヶ原
なのです。サロベツ湿原では昨年5月にスタートしたようです。この3ヶ所以外
にも全国で自然再生推進法を先取りした「計画調査」が既に行なわれていて、や
がて自然再生事業に移行する日も近いことでしょう。
本会は、環境省直轄事業が自然再生推進法に基づく自然再生事業の適用を受け
ることに反対して、「大台ヶ原の原生的自然は自然の推移に委ねるべきである」
と主張しています。
【自然再生事業に反対する理由】
(1)原生的自然の中で森林再生手法の実験を行うのは暴挙である
環境省は大台ヶ原を「全国の森林生態系再生のモデル地区」と位置付け、森林再
生手法の実験を行うといいますが、原生的自然の中で、未成熟な生態学と不完全
な科学技術をもってする人工造林実験は、原生的自然に対して修復不能の致命的
破壊を与えるでしょう。
(2)「失われた自然」とは具体的に何処を指すのか
環境省は「失われた自然を積極的に取戻す」といい、何故かトウヒ林再生にこだ
わります。しかし、台風の被害跡地は40年の時を経て乾燥し、ミヤコザサに覆
い尽くされ、その場所にトウヒ林再生を願うのはいまや妄想に過ぎません。更に、
地球温暖化により「トウヒの南限」は危うくなり、“トウヒ再生”に固執する現
実性は既にありません。そして、トウヒ純林跡地以外に“失われた自然”は大台
ヶ原にはないのです。
(3)原生的自然を「積極的に取戻す」ことができるのか
トウヒ林保全対策事業は20年近く、1億円の血税を浪費して植林してきました
が失敗して、異例の事業評価を受けることになりました。しかし、本来であれば
中止すべき事業が、自然再生事業に引き継がれることになりました。そして、自
然再生を業とするNPOの検討委員は「重機で土壌を入れ替えて苗木を植えさせ
ろ」と狙っていますが、それで“原生的自然を取戻す”ことにはなりません。検
討委員の中にも植林に反対する強い意見があります。
(4)どの時点までさかのぼるのか
環境省は当初、「国立公園指定時の鬱蒼とした森林に戻したい」といいました。
指定時の70年前は、訪れる人もまれな、狼もいたであろう魑魅魍魎の世界であっ
たと考えられます。ところが最近、環境省は何故か50年短縮して「20年前の環境
庁所管時」に目標を変更しました。
(5)人間の価値観で生態系の判断をしてはならない
環境省は「生態系の健全性の回復を目指す」といいます。森林は気候変動、野生
動物との相互作用、人為的影響などによってさまざまに変化しますが、未解明な
部分が多く、森林の変化の一時期を、人間の価値観で「健全」「不健全」と判断す
ることは非科学的・恣意的独断であります。
(6)大台ヶ原に必要なのは「自然再生」ではなく「保全の強化」である
環境省が自然再生事業の根拠にする「新・生物多様性国家戦略」では「三つの
方向」として「保全の強化」・「自然再生」・「持続可能な利用」をあげている
にも拘わらず、なぜ「保全の強化」を無視して「自然再生」」に走るのでしょうか。
最近の花粉分析学的研究によると、千年位前の大台ヶ原は、ミズナラ、ヒノキ
の山でした。原生的自然は自然の推移に委ねるべきです。隣接する林野庁所管の
「森林生態系保護地域コアエリア」は、自然の推移に委ねて手つかずの状態で維
持されています。範とすべきです。
(7)為すべきは周辺人工林の自然林化と入山規制である
周辺自然林の皆伐・人工林化により野生動物は生息地を追われました。年間30
万人の観光客とマイカー、バスが原生林に対してインパクトを加えています。為
すべき急務はこの対策です。
(8)「自然再生」は国有化の理念の否定である
30年近く前に国有化された理由は「原生林が人間活動によって影響を受けない
極相か或いはそれに近い原生状態であって、買上げなければ保護の徹底が図れな
いから」でした。人工を排して保全すべき原生的自然に人工を加えることは、国
有化の理念を国自身が否定することです。
以上
|