大台ケ原>環境省の検討会に参加して
情報提供者 : 大台ケ原・大峰の自然を守る会
提供日付 : 2005/08/25 23:01
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自然保護団体として初めて環境省の検討会に参加して
大台ヶ原・大峰の自然を守る会
田村 義彦
【はじめに】
本年(2005年)2月26日の本会総会において、自然保護団体として初めて環境省
の検討会に参加した成果を総括するようにとの提案があった。再生計画が策定され
ただけで、今後に事業実施、維持管理の難問題が残されている現時点での総括には
時期尚早の感を否めないが、一つの区切りとして整理する。
環境庁からの検討会参加要請は過去に二度あった。しかし、世上知られるように、
審議会・検討会の類が役所の原案追認の通過儀礼に過ぎないことを承知していただ
けに、自然保護団体の反対意見の封殺、懐柔が目的であろうと判断して即座に辞退
してきた。
しかし、2001年5月10日の第1回大台ヶ原ニホンジカ保護管理検討会が初めて公開
で開催され、自然保護団体が傍聴できるようになったので、本会は毎回傍聴して意
見を述べた。そして、同年10月31日に「大台ヶ原ニホンジカ保護管理計画」が策定
されたが、その「付帯提言」に、「委員及び市民等の意見は、可能な限り計画案に
反映するべく配慮したが、特に重要な点について共通認識とするとともに、市民か
らの基本的な考え方に対する強い意見が寄せられたことに鑑み、下記のとおり検討
会として提言を付帯する。」として、マイカー規制、利用調整地区設置、大台ヶ原
トウヒ林(植生)保全対策事業公共投資効果の評価、大台ヶ原周辺人工林の自然林
化、情報公開など、本会が従来から提案、要望して門前払いにされてきた事項が列
記されていたのである。正にコペルニクス的転換であった。
この保護管理計画に基づいて、「大台ヶ原森林生態系保護対策検討会」が設置さ
れ、その中の「利用対策部会」へ本会の参画が要請されたのである。検討会は、上
に述べた本会の従来からの提案を論議する検討会であるだけに懐柔として拒否する
ことはできない。常任委員会で論議を重ね、自然保護運動に関わる弁護士に意見を
求めた上で、辞表懐で要請を受けた。
委員会はその後、自然再生計画を検討する方向にシフトされて「大台ヶ原自然再
生検討会」と改称、改組されたが、利用対策部会では、「付帯提言」を確認してそ
の方向で論議を進めた。
(1)本会の主張を最後まで貫き、検討会の詳細な内容をホームページで公開
2001年から足掛け4年間、利用対策部会・現地視察会・ワーキンググループ・ワ
ークショップ・地域説明会に委員として10回出席した。更に、自然再生検討会(親
会議)・森林再生手法検討部会・野生動物部会・森林生態系部会・ニホンジカ保護
管理検討会を都合23回傍聴した。公開されたすべての会議に出席又は傍聴した。
その全ての会議の内容を、事実を損なうことのないように細心の注意を払いつつ、
自然保護団体の立場から批判を加えて本会ホームページに掲載した。5万語を越え
た。
その内容は環境省にとって極めて不快なものであったと思う。検討委員と同様に
傍聴者、メデイアにも配布された環境省の原案、附属資料、検討委員の発言テープ
などを事実に忠実に公開した。環境省からの訂正要求は氏名の誤記1回だけであっ
た。環境省と自然保護団体では当然意見が分かれ、対立することはしばしばであっ
たが、HPに書いた内容について環境省から抗議されたことは一度もなかった。一
方、検討委員からは検討会発足当初、発言内容をHPに掲載したことに抗議された
が、後に抗議は撤回され、それ以後は何もなかった。勿論本会の意見がすべて通っ
たわけではなく、無視、拒否されることはしばしばであったが、といって辞表を出
す事態には至らず、本会は最後まで主張を貫いた。
検討会の傍聴者は少なかった。里山ブームに関心を抱く市民は多くても、原生的
自然の保護に関心を抱く市民は少ない。しかし、ネットの特性によって、検討会の
実情が早く広く読まれたことを読者の反応によって知ることができた。環境省近畿
地区自然保護事務所もHPに公式の議事要約を掲載しているが、議事録ではないの
で現場を知るものにとっては隔靴掻痒の感が強い。本来であれば、中央の各種審議
会のように、議事録が掲載されるべきであろう。
しかし、議事録によって議事内容が正確に公開されただけでは足らない。検討内
容に対して、市民の批判、提言がなければ情報公開の意味がない。その意味で行政
にとっても本会のHPは有意義だったであろう。
検討会の内情を率直に書いたことに対して、委員の立場をわきまえて内情暴露を
慎め、という批判が関係者の中には多分あったであろう。一方、結果として行政追
認に荷担したと自然保護運動の側から裏切り者呼ばわりされることも承知していた
が、本会が自然保護団体の立場を最後まで貫き、検討会の実情、問題点を赤裸々に
公開したことが、行政にとっても市民にとっても有意義であったと確信している。
行政は市民とメデイアに知られることを極端に嫌う。フランスの哲学者レジス・
ドブレ氏は「インターネットには権威やピラミッド型の秩序を崩してゆく性格があ
る。」と言う。インターネットには、権力による情報の独占や支配の秩序が崩れる
可能性が秘められているのかもしれない。勿論、中国のように、権力が支配の手段
として利用する危険性もある。
敗戦後、民主主義が未成熟なままで市民運動が育たず、権力の情報に対抗する自
立した市民のネットワークが一向に構築されないが、本会のHPが、現場の情報公
開に小さな針の穴を開けたのではないかと考える。情報公開に徹底して抵抗する奈
良県当局も、環境省関係の懇話会だけはしぶしぶ公開するところにまで来たのは、
環境省の強い指導があってのことではあるが、本会のHPもささやかな圧力にな
ったであろう。
(2)環境省、「利用計画」に市民の要望を反映
本会は1978年に『大台ヶ原の自然保護と利用への提案』の小冊子を出し、2003年
に改訂した。環境省が大台ヶ原自然再生推進計画の中の「新しい利用のあり方推進
計画」として策定した三本柱のニ本「マイカー規制の実施」「利用調整地区の設定」
は本会の提案である。そして残り一本の柱「総合的な利用メニューの充実」の6項目
中3項目は本会の提案である。「利用計画」のほとんどに本会の提案が明記された。
本会は「マイカー規制」を従来から機会あるたびに環境省(庁)に要望してきた
が門前払いにされてきた。しかし、全国に28ある国立公園のうち、すでに15の国立
公園でマイカー規制が実施されている。上高地ではマイカー通年規制に加えて昨年
の夏は観光バスの乗り入れ規制を実施した。環境省は国立公園の中で「変化するも
の、しないもの」「変わっていいもの、いけないもの」を的確に把握し、対策を講
じるべし、としている。大台ヶ原のマイカー規制も決断の時と判断したのであろう
か。
また、これ以外にも一々列記しないが、計画策定段階で、本会の意見に基づいて
修正されたことは幾つかあった。例えば、大正時代の四日市製紙による東大台の伐
採が従来は族学者によって「択伐」とされてきたが、市民が提出した新しい資料を
環境省が検討してその事実を認め、「皆伐に近いかたちで伐採」と修正された。択
伐と皆伐ではその後の森林遷移の評価が大きく違ってくる。
しかし他方で、環境省は重要な事実の修正を頑なにまで拒否した。正木峠のトウ
ヒの純林が1960年代の伊勢湾台風、第二室戸台風等によって倒されたが、その風倒
木を行政が「搬出」したために“倒木更新”が出来なくなったと族学者は言ってき
た。機会があったので、林野庁の責任者に事実確認をしてもらった。丁度50年近く
前の事情を知る唯一人の職員が見つかり、「林野庁所管地については、風にもまれ
た木は中が割れていて高く売れないので搬出していない。搬出したのは環境庁所管
地ではないか。」という事実が判明した。私はそれをニホンジカ保護管理検討会で
発言して、臨席の三重県森林管理署長、同流域管理調整官と環境省が共同で調査す
ることになった。林野庁所管地の面積は環境省よりもはるかに広い。
環境庁所管地は地元の業者に搬出を委託したと思われるので少し調べたが、「昔
のことで書類が残っていないので確かなことはわからない。搬出したとしてもトウ
ヒではなくて金になる檜ではないか。」ということであった。檜では「倒木更新」
には関係ない。
ところが驚いたことに、次回の検討会で、環境省は両庁の対応の違いを全く説明
せずに「ドライブウエーを使って搬出した。」と平然とウソをついた。当然私は抗
議し、環境省は林野庁が確認した事実を認めた。大学教官の検討委員も「学生にウ
ソは教えられない」と発言した。 しかし、大台ヶ原自然再生推進計画書には「搬
出」とウソが書かれたままである。トウヒが天然更新できないファクターとして「
倒木搬出」の有無は重要である。
環境省自身が調査した事実を何故認めないのか。族学者のウソに官僚が上塗りを
しなければならない理由が何かあるのか。林野庁職員の証言を環境省が認めて記述
を改めるとメンツがすたれるのか。やがて、生き証人が役所を去り、真実が閉ざさ
れてウソだけが残る。尤も、計画書からこの類の疑わしい記述を選び出せばキリが
ない。
(3)環境省、空中回廊延長工事を撤回して伝統工法に転換
検討会と同時進行で実施された東大台周回線歩道改修工事においては、環境省は
4年前に決定していた計画を撤回し、自然保護団体、山岳会、地元住民を集めた現
地説明会を2回開催して意見を聞いて改めて図面を引き直した。地元に伝わる伝統
工法によって、入山者に土と岩を踏む喜びを与える登山道を作りあげた。本会は工
事中度々現地に通い、進捗状況と本会の意見をHPに速報して業者・環境省と意志
の疎通を図り、官民一体となって全国に範たる歩道整備を成し遂げた。
(4)実施・維持管理段階で多様な主体の参画が担保されていない
ところが、残された問題が大きい。確かに本会は計画策定に参加して意見を述べ
てきた。しかし、計画策定後、3月末で検討会はその任期を終わった。そして、今
後の実施段階、維持管理段階で自然保護団体など多様な主体の参画は法的にも制度
的にも全く担保されていないのである。市民参加の可能性があるのはマイカー規制
と利用調整地区の二つの協議会だけで、他の多くの事業は従来通り官僚が市民の声
を考慮せずに実施できるのである。
自然再生推進法では、行政の承認が必要であるにしても手を挙げた市民が協議会
に参加して、調査計画段階から事業実施、維持管理に至るまで参画できることにな
っている。例えば釧路湿原自然再生協議会は117名の多様な主体で構成されている。
(中身はかなりいかがわしい者も見受けられるが、ここでは問わない。)
しかし、「個別法に基づく再生事業」では市民の参画は担保されていない。同じ
再生事業といいながら、この違いは大きい。環境・国交・農水の官僚はその違いを
使い分けて、各省それぞれ「個別法」で事業を実施している。大台ヶ原でも当初は
自然再生推進法の適用を匂わせながら、何故か、結局は個別法でいくことになった。
環境省霞ヶ関のHPでも、この違いの説明を避けている。環境省の“広報”によ
って世間では自然再生事業は自然再生推進法に基づいて実施されていて、そこでは
市民の参画が担保されていると思っているのであろう。個別法の抜け道は全く知ら
れていない。
言い換えれば、大台ヶ原では、マイカー規制実施、利用調整地区設定が絵に描い
た餅になる可能性が高いのである。しかし、本会は絵に描いた餅を食べられる餅に
するために全力を尽くす。環境省が大台ヶ原自然再生推進計画の「基本的な考え方」
に掲げる「多様な主体の参画」の実現を求めて、開き直って全力を尽くす。
(5)マイカー規制実現と利用調整地区設置を目指して
大台ヶ原自然再生推進計画策定に自然保護団体として参加した本会の責任は大き
いと考えている。計画策定で事が終わったのではない。出発点に立ったに過ぎない。
重要なのはこれからの実施段階に市民の声を反映させることである。本会は、計画
策定後直ちに、マイカー規制と利用調整地区に関する協議会への参加を要望したが、
梨のつぶてである。これが、市民に協働を呼びかける官僚の姿であろうか。
2005年4月13日
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