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大台ケ原>「鹿捕殺と笹刈り」で大台ヶ原の自然再生はできない
情報提供者 : 大台ケ原・大峰の自然を守る会 提供日付  : 2006/03/31 23:09 登録経由地 : prweb情報受付 02 #00899 注意:自然環境フォーラム及びネイチャー&バードフォーラム経由で掲載した    情報には、一部に当該団体の公式なリリースではなく、ネットワーク向    けにのみ提供された情報が含まれています。    また、掲載形式は、原則として上記フォーラムに掲載されたテキストそ    のもので、前後にフォーラム会員宛の説明や挨拶が付け加えられている    場合があります。

    「鹿捕殺と笹刈り」で大台ヶ原の自然再生はできない

                               田村 義彦
 
 2005年11月19日にウイングス京都で、日本森林学会関西支部一般公開シンジウム
「野生動物と人との共生を考える」が開催された。文部科学省が研究成果公開促進
の補助金を出して、学者研究者を象牙の塔から市民の中に出すことを試みることに
は意義があるが、シンポ参加者のほとんどは学会関係者で、残念ながら一般市民は
少なかった。また、市民の質問も的外れな自己顕示で、演者らの市民蔑視を増幅す
る結果になったであろう。「合意形成」のためには、研究者はまず、真実を公開す
べきであり、市民にはそれを正確に理解し、批判する能力、努力が求められる。こ
のままでは「合意形成」も「市民参画」は道遠し、である。暗澹たる想いで京都か
ら帰った。

 基調講演で森林総合研究所関西支部(以後、森林総研と略す)のH氏が「シカの
個体数管理から森林生態系管理へ」と題して、大台ヶ原の実験報告をした。実は、
この報告は2002年に発表されたもので、2003年10月に森林総研が京都で市民向けに
開催したシンポジウムでも説明されていた。
 ともあれ、その後3年間の研究で新しい知見が追加されていることを期待したが、
「大台ヶ原自然再生推進計画」から写真、資料を援用するだけで、鹿を殺しながら
笹刈りを続ける、という結論は同じであった。ただ、2年前には、「あと20年で大
台ヶ原の森は消える」と市民を煽ったが、その後に策定された再生計画の「100年
先を見すえて」と整合性に欠けるので「20年」はとり下げていた。「大台ヶ原の森
林はすぐ消える」と脅す看板が15年ほど前に大台ヶ原に立てられたままであったが、
ようやく近々書き直されることになった。研究者の将来予想はかくも曖昧なもので
ある。

 今更繰り返すまでもなく、演者は、1959年の伊勢湾台風、61年のドライブウエイ
開通、60年代の周辺自然林の拡大造林によって、山上台地にミヤコザサが拡大し、
そのためにシカが増えて森林を衰退させていった(その間の経過はここでは省略す
る)、という。そこで、防鹿柵の中に20m×20mの実験区を作って実験し、そのデ
ータからシミュレーション・モデルをつくった。要約すると、シカとササは平衡状
態にあり、あちら立てればこちら立たない状態にある。従って、シカを捕殺しなが
ら、ササ刈りを毎年繰り返すしかない、と言う結論に達した、という。

 筆者は、フロアーから「所詮、研究者の実験の遊びで現実性はない」と感想を述
べたが、演者は認めた。何故か農水省関係の研究者に共通する傲慢さである。

 また、フロアーから「シカとササのバランスがとれている(平衡状態)のであれ
ば、いままでシカを殺した意味は何か」「シカは増えすぎたらクラッシュを起すの
ではないか」との質問が出たが、意味不明のことを言うだけで、まともな回答はな
かった。
 また、フロアーから「演者が森林衰退の原因の一つとした<観光客の影響>につ
いて説明がない。観光客を止めることの方がササを刈るより効果的ではないか。サ
サ刈りの現実性は?」という質問に「観光客の影響のデータはない。ササ刈りはボ
ランテイアがやりたがっている。」と答えた。

 演者はこれらのやり取りにうんざりしたのか、最後に、いささかの躊躇をみせな
がらも、遂に本音を言い切った。曰く「ササが無かった所は表層土を剥がしてササ
を根絶せよ。」よく言ったものだ。さすがに、国有林を皆伐して荒廃させた林野庁
関係者である。自然を私物化して省みない傲慢さは昔のままだ。「生物多様性の保
護」「野生動物と人との共生」を謳いながらササとシカを根絶した大台ヶ原が彼等
の理想郷なのであろう。いかに、無知蒙昧な市民でもこれを肯定することはできな
い。

 ササ刈りの「現実性」とは広い面積での技術的、物理的荒唐無稽もさりながら、
それ以上に、毎年ササを刈り続けることが、どうして原生的自然の再生になるのか、
という問いなのであるが、演者は答えなかった。演者は「シカの増加、森林の衰退
をもたらしたのは自然現象ではなく人間活動の影響である。即ち人災である。だか
ら、人間にはそれを修復する義務がある。」という。この台詞は自然再生肯定派が
必ず口にするが、「人災」への反省ではなく、人災を逆手にとった再生事業正当化
の詭弁にすぎない。シカとササを排除した大台ヶ原が、目指すべき原生的自然の姿
だと思う市民はいないであろう。市民の共有財産である大台ヶ原で、研究者面をし
た役人が税金をつかって実験データを作り、それをコンピューターにほり込んで、
戯言を言ってもらっては困るのだ。人間が贖罪のためにいま為すべきは、人工を排
して自然にゆだねることである。仮に大台ヶ原の森林が消え、笹原になったとして
も、それを人間の愚かさの結果として受け入れるしかない。変化していく自然に、
草刈機で立ち向かう愚劣さに気付かないのであろうか。ドイツのリューネブルクハ
イデ国立公園では、ヒースを「人間が犯した自然破壊のシンボル」として保存する
ことを最重要目標にして、木の進入を防いでいると、筆者は18年前に会報No.42に
書いた。

 基調講演のあとで、同じ森林総研の研究者がコメンテーターとして「ギャップ」
について説明した。そのなかで、大台ヶ原自然再生推進計画で使われている「植生
現況図」をつかって正木ヶ原、牛石ヶ原、三津河落岳のミヤコザサ群落をギャップ
のためとしたので、筆者は「三津河落岳は皆伐跡地、正木ヶ原、牛石ヶ原は江戸時
代から笹原であって共にギャップのせいではない」と発言したが、反論はなかった。
素人の市民を相手にしたシンポとはいえ、曖昧なことを言って、笹を悪者扱いする
のは如何なものか。近年、役人・研究者は「生物多様性」を水戸黄門の印籠のよう
に使うが、それを口実に特定の種を排除する矛盾には触れない。かつて“極相林”
を宝物のように言った平衡、調和、秩序を重視する古典生態学よりも、ギャップで
説明される撹乱、不均一、変動の生態学のほうが説得力があると筆者も考えるが、
この例示は新しい生態学の説明としては適切ではないであろう。現在大台ヶ原では、
いかがわしい御用学者によって「ササが増えてシカが増え、ササとシカが森林を衰
退させている」という単純な説明でササとシカを犯人扱いしているが、極めて恣意
的で非科学的である。

 もう一つの基調講演は兵庫県の熊の報告があった。紙面の都合で省略するが、コ
メンテーターの京都大学農学研究科の高柳 敦氏の示唆に富むコメントを記してお
きたい。メモ書きなので、不充分、不正確であると思われるが訂正を乞う。

 ☆科学的情報の不足
  ・シカの影響が少なかった昔が正しい自然とは限らない。人間は勝ち過ぎてい
   た。
  ・シカの適正頭数は不明。捕獲では効果は期待できない。特定のホットスポッ
   トの防除が必要。
 ☆市民参加による合意形成
  ・管理手法は目標を決定しない。
  ・専門家は管理目標を決定できない。
  ・行政が関係者(被害者、加害者、狩猟者、一般市民など)の合意の下に、管
   理目標を決める。
 ☆長期ビジョンの共有
  ・モニタリングをしっかりやる。市民からの正確な情報が必要。

 因みに高柳 敦氏は1979年創立の「ノンスポンサード・ボランテイアグループ」
「かもしかの会関西」の代表者でもある。来年のシンポでは、研究者でかつ市民活
動家でもある高柳氏にぜひ基調講演を望みたい。それこそが、シンポ開催の趣旨に
沿うであろう。森林総研の市民を愚弄するデマキャンペーンはこのあたりで御免蒙
りたい。
                              2005年11月21日



  

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